結婚生活ランキング 恋愛ランキング
大きな声をあげて騒いでた方の子が母親のスキを見て走り出し、コケて俺の足元にダイビングをしてきた。
「コラコラ危ないぞ」
と言い、お母さんのところに連れて行って、顔を見た瞬間に全身が固まった。
「由樹?」
と俺が言うと、彼女は一瞬動きが止まり、まじまじと俺の顔を見る。
すると彼女の顔は、はち切れんばかりの笑顔になった。
ボサボサの髪を後ろで結わき化粧ッケもなく、やけに疲れた感じであったが、間違いない。
高校の時に付き合っていた由樹だった。
由樹はお世辞にも綺麗な格好とは言えず、肌も荒れ疲れた様子だったが、笑顔だけは昔の可愛いままだった。
由樹は高校卒業後、東京の大学に入るため上京。
そのまま都内で就職したらしい。
地元に残った俺が知ってるのはそこまでだ。
由樹は話し始めた。
29歳で結婚したが、始めは優しかった旦那が3年経ったあたりから、酒を飲んでは暴力を振るうようになった。
去年離婚して、実家に帰ってきたが、パートにしか出れないため肩身がせまく辛い思いをしてると言う。
土曜日の昼間に一人でスーパーで買い物している俺を見て、当然独身だと判断したみたいだった。
「まだ実家にいるの?」と聞く「いや、いまは駅の向こうに家買った」と答え、続けて「夏休みだからカミさんと子どもは田舎に遊びに行ってる、俺は明日試合があるから一瞬じゃないだけ」と話した。
由樹はちょっと驚いた顔をしたが、すぐにあの笑顔に戻り「まだサッカー続けてるんだ」と喜んだ。
最近の近況や明日の試合のこと。
懐かしい昔話などをして別れた。
翌日になり、サッカーの試合のため運動公園でアップをしていると、普段は見学者なんかいないはずのスタンドに女性がいた。
由樹だった。
俺が入ってるサッカーチームは田舎のオッサンクラブチームなので、同級生とか後輩が結構いる。
誰かが叫んだ「あれ、マネージャーじゃねぇ?」そう、由樹は高校サッカー部のマネージャーだった。
みんなが一斉に俺の顔を見る。
「昨日会った。なんかコッチにいるみたいだよ」
当然のように由樹はみんなに誘われ、ベンチまで来た。
バツが悪そうに俺を見ながら「迷惑だった?」「いや、別に」と短い会話をして試合が始まった。
応援があったせいかは分からないが、みんないつも以上に頑張り試合には勝った。
いつもの成り行きで祝勝会となり、後輩達が由樹にも来るように説得していた。
事情を知っていた俺は無理をしないように言ったが、少しだけということで顔をだすことになった。
祝勝会での話題は必然的に由樹に集中した。
実は由樹は部員に人気があった。
顔は可愛く、明るくて良い性格だったので、みんなから好かれた。
今はその明るさがあまりないが。
由樹は聞かれるままに今までの経緯を話していた。
その時はマズイ雰囲気になったが、すぐに取り戻し何事もなかったように盛り上がった。
宴会が終わり、結局最後まで残った由樹を送って行った。
途中で色々な話しをした。
この町を出なければ良かった。とずっと後悔をしていた。
泣きながら話しをしていた。
俺は隣で聞いているだけだった。
最後に、「自立出来るように頑張る」と由樹は言い元気に帰って行った。
そして3日後、俺は普通に仕事をしていたところ、由樹からメールがきた。
メールの内容はこうだった。
実家にも居づらくなり、早々にアパートなりを借りて仕事をして生活したかった。
場所は遠いが寮つきの仕事を見つけ、子どもと生活ができる目途がついた時に俺と再開した。
みんなと会って、この町で暮らしたいという気持ちもあったが、甘えてしまうので当初の予定通り出ていくとのこと。
メールは返信拒否となっていた。
由樹の消息はわからなくなった。
あれから2ヶ月がたつが、由樹は元気にしているだろうか。
あの数日間、俺は確実に懐かしい気持ちになっていた。
由樹を好きになっていたと思う。
今となっては由樹の幸せを願うばかりだ。
休みの日に一人でいたもので、つい思い出して書き込んでしまいました。
誰にも言えない夏の思い出です。
- 関連記事
-